「国指定史跡 寒風古窯跡群]に関する冊子と子供用パンフレットが出来ました!

冊子「寒風古窯跡群と都との関わり」・子供用パンフレット「知りたい!寒風古窯跡群」
が完成しました!

冊子は国指定史跡 寒風古窯跡群がどのように発見・保存されたのかという歴史や、近年、陶芸家と奈良文化財研究所の研究者とで進めている、古代の須恵器に関する技術や製品を復元する取り組みについてご紹介する内容です。
子供用パンフレットにつきましては、寒風古窯跡群についてわかりやすくお伝えする内容になっています。
冊子、パンフレットをとおして国指定史跡 寒風古窯跡群について、より深く知っていただけましたら幸いです。
制作にご協力くださいました関係者の皆様、大変お世話になりありがとうございました!

発行:瀬戸内市
編集:公益財団法人 寒風陶芸の里
協力:奈良文化財研究所
デザイン:時代意匠考案 藍寧舎

<瀬戸内ほしのさざなみ映画館>寒風古窯跡群×ミニオンズ

11月24日(日)、空模様にやきもきしましたが、おかげさまで無事に上映終了しました!!
お天気が心配でしたが上映のころには満天の星空★
 

 

 

会場となった寒風古窯跡群は、国の指定史跡 に指定されており、1400年ほど前に須恵器という焼き物を焼いていた場所です。足元には1400年前の破片がごろごろしているのです。
焼き物をつくることが出来る鉱物や土があるのは地球だけ、陶器をつくることから人間の文明が発展したといわれています。今やAI、スマホ、PC、医療機器などにもセラミックスの技術が使われています。今ある技術や文化は過去から脈々とつながってきているんだな~、なんてことを想像し、歴史に思いを馳せるきっかけになっていただけたら嬉しいです。
 

 

この度は多くの方にお越しいただきまして本当にありがとうございました!これをきっかけに初めてお越しくださった方もいらっしゃったようです。会場として寒風古窯跡群にスポットを当ててくださった関係者の皆様、ありがとうございました!
環境整備等々、事前準備に汗を流し、当日の受け入れも対応して下さった瀬戸内市移住交流促進協議会の皆様、実行委員の皆様、ありがとうございました!
ご出店いただいた皆様ありがとうございました!
また会場でお会いできることを願っております!!

 

「土器土器!わくわく どんな顔が描けるかな」人面墨書土器完成!!

須恵器の円面硯で墨を擦って、人面墨書土器を作ろう!というワークショップを11月2日(土)、瀬戸内市民図書館 オリーブの庭で開催しました。
今回は奈良市のデザイン会社「藍寧舎」代表・金田あおいさんプロデュースにより、描く土器を野焼きして、円面硯を使って墨を擦り、人面墨書土器を作るという企画でした。
墨書土器って何?というところから、円面硯を初めて見る子や、初めて墨を擦るという子もいて、新鮮な体験と感じてもらえたのではないでしょうか。私たち大人にとっても、もはや文字を打つ時代になり、書くということが減ってきている中、墨を擦って、穂先を揃えて筆で描く作業は、何かと忙しく過ぎてしまう時間の流れを、丁寧に過ごす時間に変えてくれるように思いました。歴史に思いを馳せる時間にも。
今回企画にご協力くださいました藍寧舎・金田様、参加いただいた皆様、大変ありがとうございました!
野焼きの準備から当日の準備までお手伝いいただいた寒風ボランティア協議会の皆様も大変お世話になりました!

■当日の様子を藍寧舎・金田あおいさんが実況ツイートでまとめて下さっています。➡こちら

 

 

 

 

 

 

 

11月2日企画準備「野焼きの実況ツイート」

11月2日「土器土器!わくわく どんな顔が描けるかな」の土器準備の様子を藍寧舎・金田あおさんが
「野焼きの実況ツイート」➡こちらでまとめてくださいました!
ワークショップ当日は奈良から墨書土器を作るお手伝いに来てくださいます。
円面硯を使って墨を擦るところからの体験企画です。
会場は瀬戸内市民図書館オリーブの庭。

まちのすきまカフェ2019「黙水さんと寒風陶芸会館であそぶ」

まちのすきまカフェ2019「黙水さんと寒風陶芸会館であそぶ」は、NPO法人ハートアートリンクさまより企画のお話をいただき、実現しました!
日常生活において、その存在を忘れかけている「すきま」にスポットを当てることで、物理的空間にとどまらず潜在化している機能や視点、記憶などを掘り起こし、まちにおける存在意義やまちそのものを再定義する「まちのすきまカフェ」。
ということで、今回は寒風陶芸会館を舞台に、吉備地方最大の須恵器生産地の一つ「寒風古窯跡群」を発見した、在野の考古学者「黙水さん(本名:時實和一)」の魅力をアーティストが探り、ダンス・音楽・映像のライブパフォーマンスで表現!!
気持ちの良い秋の一日をお客様と満喫させていただきました。

現在、寒風古窯跡群には1400年ほど前の古い窯が5基見つかっていますが、調査後埋め戻しをしているためその様子は見ることは出来ません。なだらかに広がる草原の丘一帯が寒風古窯跡群です。ステージとして整った環境ではありませんが、プロのライブパフォーマンスは素晴らしいものでした!
虫の声、月夜あかり、何もないおおらかな空間、という演出もすべてがアーティストと溶け合い、なんとも気持ちの良いステージでした。
  

 
寒風にスポットを当て、企画準備に奔走してくださったNPO法人ハートアートリンク田野さん、大変お世話になりました。パフォーマンスの構成、音楽演出のアーティスト:岩本象一さん、ダンサー:カタタチサトさん、映像作家:吉川寿人さん、黙水さんの鞄にいつも入っていたという乳ボーロにちなんで「ぼうろカフェ」を提供してくださったバリスタ・フードコーディネーター:杉本克敬さん、大変ありがとうございました!!
 

  

 
フード出店協力「粟の会」の皆さん、「本庄地区コミュニティ協議会」の皆さんありがとうございました!

備前市立備前焼ミュージアム臼井洋輔 館長&武久顕也 瀬戸内市長の寒風トークでは、前向きな未来を感じる意見が多く、文化財が持つ可能性を皆さんと考えることが出来ました。
 

  


企画準備のサポート:FabLab Setouchiβ三木さん、史跡の草刈りに力を貸してくださったとくらすの菊地さん、出口さん、寒風ボランティア協議会の皆さん、そしてご来館下さった皆様、本当にありがとうございました!

黙水さんもどこかで見てくれていたのではないでしょうか。

瀬戸内市クラウドファンデング型ふるさと納税 返礼品「十坪住宅貯金箱」制作からお届けまで

瀬戸内市クラウドファンデング型ふるさと納税
返礼品「十坪住宅貯金箱リバイバル版」へお申込みいただきありがとうございました。
本日、一つ目の貯金箱を発送することが出来ました。

十坪住宅貯金箱リバイバル版という「もの」のお届けではありますが、この貯金箱を通じて
ハンセン病療養所と療養所内での過酷な隔離政策を必死に生きてきた方たちの歴史に関心を
持っていただければ思います。
そんな「思い」がお届けできたら嬉しいです。

<制作工程>
■ずらりと並んだ型
 

■【本体】ベルトでしっかり固定した型へ、粘土を押していきます。
空気が入らないように、しわになりにくいように、模様がしっかり出るように押し付けます。ちょっとコツが要ります。
 

■【屋根】空気が入ると粘土が型に沿わないので、奥から少しずつ丁寧に。
厚めに盛った粘土をヘラで調整しながら削り取り、土台のサイズに合わせ接着面のサイズを出します。
 

■これらのパーツを組み立てていきます。

■少し置いて、水分が軽く抜けたところで型から外していきます。
乾きすぎるとパーツの接着に苦労しますから、丁度よい頃合いを逃さぬよう、タイミングを計ります。
  

■どうしてもしわになってしまうところがあるので、ヘラで修正します。
玄関ドアのパーツは厚みを均一にするため、接着面を残しくり抜きます。
  

■玄関屋根・窓のパーツを型から外します。
  

■各パーツの接着
  

 

 

■本体内部も削って厚みを調整。屋根パーツにある貯金箱投入口をカットします。
  

■屋根と本体を接合するため、接着面に傷をつけ、水に溶いた土を塗ります。
接着面の粘土がより絡み付き外れにくくなります。
  

■屋根をそっと乗せて余り部分の幅が均一になるように接着します。
  

■位置が決まったらしっかり接着面を押さえます。
やきものは乾燥と焼成の段階で全体が2割ほど収縮します。接着が弱いと接合部分が裂けるように収縮してしまいますから、本体と屋根が離れないようにしっかりしっかり丁寧に押さえます。
そして引き戸の模様をへら書きします。
  

■すべてのパーツを組み立てて、へら書きが終わったら、ゆっくりゆっくり乾燥させます。
乾かしたいのですが、乾きすぎないように時間をかけてゆっくり乾かします。
組み立てるパーツが多いため、接合部分の収縮が上手くいくようにゆっくりと。

■藁を詰めて一度800度で素焼きをします。

■長島愛生園の内白間窯で使われている「かいづか」の灰を分けていただきましたので、屋根に振りかけます。
かいづかの樹を燃やして灰にし、長石などを調合して会員の皆さんが作られたものです。
製作に使用する寒風の粘土に少量、光愛道路の赤土を入れています。
十坪住宅があった場所の素材を少しでも加え、作品に景色をつけます。
  

  

■炭を入れて、1230度で2度目の焼成をします。
 

■完成です!
貯金箱の裏には「うちしらま窯」の印、会員の皆さんの「斉」、「伸」の印、制作に携わらせていただきました「寒風」の印を押しています。限定品のナンバリングは会員さん手書きの数字を、レーザー加工で焼きつけています。
  

■十坪住宅貯金箱用のオリジナルダンボール箱に入れてお届けします。
この箱は塗り絵も出来るようになっていますので、小さなお子さんにも身近に感じていただけることと思います。
十坪住宅貯金箱についてのしおりと、思いを込めてお届けします。

お申込みをいただいてから、お届けできるまでにお時間いただきますがお許しください。
  

  

岡山県瀬戸内市のふるさと納税クラウドファンディング「後世に伝えたい ハンセン病の歴史」

NPO法人ハンセン病療養所世界遺産登録推進協議会

「十坪住宅貯金箱」リバイバルプロジェクト

「公益財団法人 寒風陶芸の里」寒風陶芸会館では、陶のご縁をいただき「十坪住宅貯金箱」リバイバルプロジェクトに参加せていただいております。以前別のプロジェクトの際に長島の皆さんに参加ご協力いただいたご縁もありましたので、今回のお話をいただいたときは、陶芸に携われていられることを大変うれしく思いました。

先日5月9日から始まりました、岡山県瀬戸内市のふるさと納税クラウドファンディング(GCF)「後世に伝えたい ハンセン病の歴史」の、お礼の品の一つとしての取り組みです。

はじめてこの貯金箱を見せていただいたとき、住宅型ということもあってか、何か体温のようなものを感じました。実際の十坪住宅では、屋根を伸ばしたり、部屋を増築したりと、よりよく暮らすための知恵や工夫を重ねて成長していったとお聞きしました。当たり前にあるべき日常がそこにあったと思います。ただその日常は過酷な隔離政策によって長島に限られた環境にあったのです。この限られた環境において、計り知れない悲しみやご苦労があったと思います。立場や目線が変われば感じ方も変わると思いますが、そこに暮らした方たちに想いを寄せることから多くの学びがあるように思います。

この貯金箱が長島の歴史を伝えるモノの一つとして、多くの皆さまに関心を持っていただけますように。そしてこの小さな貯金箱が学びの種の一つとなることを願っております。
皆さまのご支援、ご協力を、何卒よろしくお願い致します。


現在残っている「十坪住宅貯金箱」1935年(昭和10年)頃作成

 


十坪住宅貯金箱リバイバル版

■岡山県瀬戸内市のふるさと納税クラウドファンディング「後世に伝えたい ハンセン病の歴史」
https://www.furumaru.jp/gcf/projects/detail.php?project_code=332127_03

■NPO法人ハンセン病療養所世界遺産登録推進協議会
https://www.hansen-wh.jp/

須恵器を焼く

寒風須恵器プロジェクトは2016年に寒風作家協議会の皆さんへのアンケートから、須恵器プロジェクトに「参加」としてくださった作家さんたちと取り組みを始めました。今年度で3年目となります。
寒風産須恵器について焼成方法の教科書は無く、当時の寒風産須恵器に仕上げるべく試行錯誤を繰り返してきました。頭でわかっていることを具体化してみると、少しずつ新たに見えてくるものがあり、結果を次の判断につなげてきました。土、燃料、焼成方法、還元方法、冷却方法・・・やきものの奥の深さを感じることに。
 

今回はこれまでの中で一番近づけたように思います。窯の形状が当時のものと違う中で、当時の窯環境に近づける焚き方を考え、当時の陶工が置かれた状況を想像して取り組みました。
意見を出し合い、判断を共有し、作業に取り組んだ回でした。
  

「これまでで一番面白かった」の声もあり、個人の作家活動にはない面白みを感じることが出来た回になりました。
奈良文化財研究所の皆さんからの助言も我々のモチベーションを維持してくれています。
須恵器を焼成するにあたり窯跡研究会の森内秀造さんとのご縁から始まり、奈良文化財研究所の皆さんとのご縁へつながりました。
 
寒風ボランティア協議会の皆さんの補助もあり、無事窯出しを終えることが出来ました。
次の課題が見えたことから、今回得られたものはとても大きいと感じています。
これはやめられない・・ですね。
関係者のみなさま、大変お世話になりました!

須恵器をつくる

「須恵器制作・焼成プロジェクト」は取り組みを始めて今年度で3回目。作品を制作し焼成してみると、そのたび寒風古窯跡から出てきた須恵器との違いを確認することになります。制作工程、焼成方法などを推測し挑戦するのですが、結果少し違う様子が見えてくるのです。

1400年前の先人が残した教科書は、地面から出てくる破片しかありませんので、そこからどれだけ読み解くことが出来るか、回を重ねながら試みています。
そんな中、古代の都奈良で日々調査、研究を重ねていらっしゃる奈良文化財研究所の皆さんが2018年10月、寒風陶芸会館へお越しくださいました。沢山の遺物を調査してこられた方々の推定した製作方法を実践してみることで昔の陶工がどのような道具を使い、どのような制作方法で形にしていたのか、思い込んで疑わなかった作業をもう一度考えることに。文字の無い教科書を解説していただくことで、ぐぐっ!と昔の陶工の作業イメージが浮かんできます。その様子を ■なぶんけんブログ「フタの裏には何がある?」  ■寄稿「古代備前産須恵器~須恵器づくりが結ぶ古代と現代~」でご紹介くださっています。

2019年1月22日から窯に火が入り須恵器の焼成が始まります。過去2回の焼成結果から得られたことを材料に、作家の皆さんと試みを行ってみようと思います。
三度目の正直となりますか。

寄稿 「古代の備前産須恵器 〜須恵器作りが結ぶ古代と現代〜」

須恵器プロジェクトに取り組み始めてご縁をいただき、今年10月末に奈良文化財研究所の皆さんがご来館下さった様子について、寄稿くださいましたのでご紹介します。(三浦)


古代の備前産須恵器
〜須恵器作りが結ぶ古代と現代〜

独立行政法人 国立文化財機構
奈良文化財研究所 都城発掘調査部 考古第二研究室
主任研究員 神 野  恵

 

古代の須恵器研究者が寒風窯に通う理由

奈良文化財研究所は、奈良の藤原京や平城京をフィールドに、古代の都の発掘調査をおこなっています。私たちは日々、ここから出土した土器を研究しています。こんな私たちが最近、よく寒風窯の須恵器の調査に来させてもらっています。ここで何をしているのだろう?とお思いになっている方もいらっしゃるかもしれません。私たちの活動内容について、お話ししてみようと思います。少し、長くなりますが、ご興味お持ちの方は、最後までお付き合いください。

飛鳥・奈良時代とは、律令制度を国家の骨組みとした中央集権的な時代でした。地方は律令の規定に従い、様々な税金を都に納めなければなりません。窯で焼かれた「須恵器」も「調」という税として都に運ばれました。調納国といって、須恵器を「調」として納めるべきと規定されていたのは、摂津・和泉・近江・美濃・播磨・備前・讃岐・筑前の8カ国。

古代の寒風窯で発掘された須恵器と、よく似たものが藤原京などで出土していますから、ここで焼かれた須恵器のなかには、備前国からの調として都へ運ばれたものもあったでしょう。

古代の「備前焼」は白い器で「美濃焼」と酷似

この古代の須恵器作りが、現代の備前焼のルーツと言えるわけですが、古代の「備前焼」は、現代の備前焼とは全くイメージが違います。古代の須恵器は、白っぽい色で、薄緑色の自然釉がかかるものが多く、現代の赤褐色の備前焼とはずいぶんイメージが違います。

そもそも、古代の須恵器は酸素が少ない状態で焼成しますので、鉄分が還元した青灰色を呈するものが一般的です。しかし、なぜか備前国と美濃国の須恵器には、白っぽいものが多いのです。なんとか備前と美濃の須恵器を見分けたい!私たちが寒風窯で調査を繰り返す大きな理由の一つです。

備前と美濃では距離も離れているため、本当に作り方や器形から区別がつかないのでしょうか?生産地ごとに違う器を作っていたのでは、都に集まる器は、バラバラになってしまいますよね?税として納められるような須恵器は、同じような形、大きさを目指して作られています。おそらく、都から規格についての注文があったのでしょう。規格に沿った器は、特に高い作陶技術を要するものではなく、むしろ大量生産に向いたシンプルなものが多いですから、生産地での技術の差が出にくく、区別が難しいのです。

古代の須恵器製作技術

私たちは日々、都に運ばれた須恵器を観察して、どのように作ったのか、痕跡から研究を重ねてきました。しかし、自分で作る技術力は素人同然です。自分たちが推定した方法で、作陶技術を持った陶匠(すえたくみ)が須恵器を作ったら、出土品と同じような痕跡が残るのでしょうか?

寒風陶芸会館には、現代の備前焼の作家としてご活躍の陶匠さんがたくさんいらっしゃいます。私たちが須恵器のなかでも一番難しいと思っていた蹄脚円面硯を、本物そっくりに作る技術力の高さに驚きました。この作家さん達なら、私たちが見たい方法で須恵器を作ることができるに違いないと直感しました。

古代の須恵器を作ってみせてもらえませんか?

2018年10月、平城京から出土した須恵器を持って、寒風陶芸会館を訪れました。このような器を作ってみせてもらえませんか?末廣さん、三浦さんら、作家さん達が、こころよくチャレンジしてくれることになりました。

日本の古代の須恵器作りは、ほとんどが右回転の手まわし轆轤で作られています。私たちが須恵器杯Hと呼ぶ器は、寒風窯でもたくさん焼かれた器です。

この器を最後にどうやって切り離していたのか?考古学的には議論がありますと言っている横で、末廣さんがヘラを入れて切り離すと、古代の器そっくりの底部が目の前に出現しました。研究者一同が「うわ〜っ」と唸った瞬間です。

須恵器蓋のつまみは、「粘土の塊を押しつぶして広げていくだけで・・」と尾野さんが言い終わる前に、末廣さんは頷きました。蓋のつまみは、現代でも同じ方法で作るのだそうです。

壺瓶は粘土で風船のように膨らませて…

古代にはさまざまな形の壺や瓶が須恵器として作られていました。フラスコ形のように丸いものや、角ばった肩を持つものもあります。このような器は頸の 付け根あたりに粘土を貼り付けたような痕跡をもつものがあります。

この作り方を、奈文研の尾野さんが解説します。「まず、球形の体部を轆轤で引いてもらって、上を粘土板で塞いで風船のようにするんです。それをグッと上から潰すと、壺の体部の形になりますから…」。聞いている作家さんたちは半信半疑でしたが、作家の三浦さんが尾野さんの言う通りに轆轤を引いてくれました。

あとは、半乾燥させて、頸部をつける部分に孔を開け、粘土を足して頸部を引きます。これまで半信半疑だった作家さんたちも興味津々です。末廣さんが頸をつける部分に孔をあけて、粘土を積み足して轆轤で引くと、古代の壺にそっくりの壺ができました。

「こうやって作った壺の中身が見たいですね」私たちは、いつも割れた破片ばかりを目にしていますから、本当に風船技法で作ったと私たちが考えている破片と同じような痕跡を持つのか?せっかく、古代の壺そっくりに作っていただいた壺をカットして頂きました。すると、発掘調査で出土する割れた壺にそっくりの痕跡を確認することができました。

古代の須恵器づくりは、技術だけでなく貴重な研究素材を提供

私たちが研究している古代の須恵器には、食器や貯蔵具だけでなく、調理具も含まれています。私たちの研究チームのメンバーである森川さんは、鉢Fの用途について研究しています。鉢Fは漏斗形のボディに、厚い円形の底部をつけたものです。

この器形の鉢は、こね鉢やすり鉢などのように使われたと考えられており、出土品の中には、使用によって器表面がすり減っているものがあります。森川さんは、実際にどのように使用すると、どのようにすり減るのか?須恵器製の鉢Fでつぶしたり、擂った食品や調味料は、どのような味がするのか?など、製作実験に使える陶製の鉢を探していました。

寒風陶芸会館でボランティアをされている妹尾さんと中村さんが、この研究に協力をしてくれました。事前に出土品の図面をお送りしたところ、出土品と同じような鉢Fを作ってくれていたのです。鉢の底部は分厚いためでしょうか、蓮花状に穴が開けられているものが多いので、最後の穴あけの仕上げを森川さんに残しておいてくれました。この立派な復元鉢Fが、森川さんの古代の調理具研究を進める一助となるのは間違いありません。

古代と現代のコラボレーション

飛鳥・奈良時代の須恵器作りの職人は、おそらく、藤原京や平城京から運ばれたモデルとなる須恵器を見せられ、これと同じようなものを作りなさいと言われたのでしょう。あるいは、都の役人が、いろいろ注文をつけたかもしれません。各地方の須恵器窯の陶工たちは、古墳時代からもっと複雑な須恵器を作っていますから、求められた器を製作するだけの技術力を十分に持っていたのでしょう。

現代の寒風陶芸館の作家さん達は、古代の都から来た私たちが、いろいろ注文をつけたにも関わらず、ほぼ同じような産品を忠実に作ってくれました。つまり、古代の陶工に勝るとも劣らない技術力を持っていらっしゃることは明らかです。私たちが理屈で考えた技法で作ることができるのか?この検証に必要なのは、「勝るとも劣らない技術力」に他なりません。この古代の須恵器作りへのチャレンジが、発掘調査では入手できない貴重なデータを私たちに与えてくれました。

今後も、たくさんの陶芸好きの人、古代史好きの人に、ワクワクしてもらえるようなコラボレーションができれば嬉しいですね。私たちの研究に、今後もご協力のほど、よろしくお願いします!